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  • サークル名:原風景を歩く(O.C.)



    ■ 多武峯(とうのみね)の談山神社

    棚田が消え、急坂を登り詰めて峠を越えると、談山神社の駐車場の前に出る。ここから十三重の塔への近道があるが、やはり観光客の訪れることのない東大門前から入ることにしよう。
    紅葉シーズンでもないこの季節、東大門はうっそうとした深い緑に覆われている。この古寂びた山門には、華やかな紅葉よりも湿りを帯びた暗い緑がよく似合う。
    参道は深閑とした杉木立の下を上ってゆく。ほとんど陽の射すことにない石垣は苔むし、石垣を洗う流れが音を立てて下ってゆく。
    猛暑もこの木立の下までは届かず、仄暗さとひんやりとした空気が漂っている。長い坂道をゆっくりと味わおう。
    神社の参道は意味あって作られたものである。山門から拝殿まで近ければいいというものではない。最近その距離や時間をショーットカットして、拝殿に近いところに駐車場を設けて、手早くお参りをしようとする、社寺を単なる観光スポットとして考える風潮が気がかりである。
    神域に近づくには、山門をくぐり、清流や手洗舎で身を清め、心が洗われてゆくだけの深閑とした空気と時間と距離が必要である。高野山の奥の院までの暗く深い杉木立の参道や、羽黒山の気の遠くなりそうな石段の連続は、神域や仏の世界へ近づくための大切な時間の工夫なのである。

    ようやく坂を上りきると、緑の木々の間から山を背にした十三重の塔の姿が小さく見えてくる。塔は遠くから眺めるのもいいものである。塔そのものの美しさだけでなく、塔を取り巻く情景は、塔の姿をより美しく見せている。
    室生寺の塔を囲む深い杉木立は、深遠な情景を生み出している。薬師寺の塔を映す池の水面(みなも)は大和盆地の時を物語っている。法起寺の塔を浮かべる稲田は、斑鳩の旅を豊かにしてくれる。塔を取り巻く情景は、塔の持つ個性を引き立て、塔を一建築物から風景へと昇華させてゆく。

    参道の湿りを帯びた空気に、紫陽花のほのかな色が滲み出している。滴るような緑の下には、紫陽花の色がよく似合う。雨蛙や蝸牛も、強い陽射しの下よりも、物静かな紫陽花の花に惹かれて集まってくる。

    鳥居をくぐって石段を上ってゆくと、緑の木々の隙間から拝殿の朱色が見え隠れしている。
    やはり塔や拝殿の朱色を引き立てるのは緑である。紅葉の季節では、ともすれば紅葉の色が勝って、塔の朱色は埋没しかねない。若い頃には神社の朱色がけばけばしく感じていたが、この歳になると、緑の木漏れ日の向こうにわずかに映える朱色がけっこう好きになってきた。数ある色の中から、先人たちが神社の色に朱色を選んだわけが、今ようやく理解できるようになってきた。

    拝殿に入り、暗くひんやりとした板間に腰を下ろすと、回廊を隔てて緑の椛(もみじ)が風を受けて揺れている。
    拝殿から見る本殿は、いくらか色あせてはいるが、その色合いは日光東照宮の原型のような重厚さである。そこには藤原(中臣)鎌足が祀られている。唐より帰国した長男の定慧が、北摂の阿武山に祀られていた鎌足の墓を、多武峯に改葬したのが談山神社のはじまりだといわれている。

    ■「談所の森」へ

    談山(たんざん)神社から、藪蚊に追われながら裏山に分け入ると、ほどなく「談山(かたらいやま)」と書かれた小さな標識に出会う。このあたりは古くから「談所の森」と呼ばれてきた。
    「談山」、「談所の森」の「談」は「談合」の「談」。すなわち中大兄皇子と中臣鎌足が、この山中で蘇我入鹿暗殺の謀議を計ったという。なるほど、ここなら飛鳥を真下に見下ろせ、飛鳥からさほど遠くはなく、しかも山は深い。謀議を計るにはもってこいの山中といえる。表舞台からは舞台裏は見えないものであり、舞台裏からは表舞台はよく見えるものである。古今東西、謀ごとは常にこうして舞台裏で行われてきた。

    しかし、この談所の森での謀議以前に、鎌足は病気と称して摂津の阿武山の麓に退き、ひとり策を練っていたとも言われている。当時の状況は、読む本によって鎌足の心情や策略についてのとらえ方が異なり、歴史に詳しくない私にとっては、何が事実なのかは分らない。

    さらに暗い細道を進むと、ほどなく山頂に至り、藤原(中臣)鎌足の墓がある。この山には、御破裂山(ごはれつざん)というずいぶん物騒な名前がついており、名前から想像するといかにも険峻な山容を想像するが、あくまでも大和の山らしい穏やかな山である。しかし国家に不祥事があると、この神山が鳴動したといわれている。鎌足がこの山に祀られて以後、どんな時代に何度鳴動したのだろう。
    (写真)
     1.緑に包まれた談山神社東大門
     2.談山神社十三重塔を望む
     3.朱色の拝殿の外は緑の風
     4.紫陽花に雨蛙が遊ぶ
     5.御相談所(談合の森)
    コメントする 2011/08/06 10:11

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