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  • サークル名:原風景を歩く(O.C.)


    ■北山の峠道―四つの街道、四つの水系

    京都北山の主要旧街道は、洛北を発って日本海の若狭に向かっていた。街道は大きく分ければ四つあり、一番東には、三千院や寂光院で名高い大原から途中峠、花折峠を越え、安曇川沿いに下り、檜峠を経て若狭に向かう。いわゆる「鯖街道」と呼ばれている敦賀街道である。
    二番目は、鞍馬寺のある鞍馬から花背峠を経て、大堰川を遡って広河原から佐々里峠を越えて由良川流域に達する。
    三番目は賀茂川上流の雲が畑、岩屋から、薬師峠を経て、笹薮に埋もれそうな尾根道を桟敷岳に登り、さらに幾重にも重なる峠道を若狭に向かう雲が畑街道の延長である。
    そして一番西には、神護寺や高山寺で有名な高雄から栗尾峠を越え、大堰川水系の周山に下り、さらに深見峠の分水嶺を経て由良川水系に入り、若狭に向かう周山街道である。

    また北山には大きく四つの水系がある。北山から南の京都盆地に下る賀茂川水系。北山山中から西に迂回して、亀岡盆地から保津川を嵐山に下る大堰川水系。北山山中を源に、北山と比良山との隙間を北上し、比良山を迂回して琵琶湖に下る安曇川水系。さらに芦生の京大研究林を源に、日本海に向かう由良川水系である。

    北山の峠道は、東海道の箱根峠や鈴鹿峠、中山道の和田峠や碓氷峠のように、大名行列行われたり、広重の東海道五十三次の浮世絵に描かれたような華やかな街道筋ではない。今でこそ観光的に「鯖街道」とよばれる道も、北山山中を若狭から京に荷を運ぶ峠道だった。


    ■北山の峠道―仕事道、生活道、隠れ道

    北山の集落は、これら四つの街道沿いだけではなく、山間の小さな窪地や川の源流深くにまであった。
    四つの街道が京都と若狭を結ぶ産業道路だとすると、北山の山襞や尾根を網の目のように縫う峠道は、山に生きる人びとの仕事道であり生活道であった。その峠道、尾根道、沢道は数え切れないほどで、峠の数は千ともいわれる。
    そこで、人びとは木を育て、木を伐り、炭を焼き、木を加工して、床柱や挽きものを作って山の生活を営んできた。

    少なくとも四十数年前には、仕事道、生活道としての峠道はまだ生きていた。峠近くや沢の源流の思わぬところで、民家に出会ったこともあった。すでに廃村になっていた村もあったが、蔵の白壁に描かれた落書きが残り、峠道の石垣にはお茶の木が残り、人の気配を感じさせた。
    沢沿いにつづく木馬道で、杉の丸太を滑らして運ぶ人たちに出会うこともあった。峠のお地蔵さんには真新しい赤い涎掛けがかけられ、花が添えられていたし、小さな神社の黒木の鳥居には、榊が供えられていた。峠道を下った沢には、真新しい丸木橋がかけられていた。
    また、北山は京都のすぐ裏にあり、京都の政治や文化とも少なからぬかかわりがあった。北山は、政権から追われた人たちの隠れ家となり、隠遁の里であった。峠道は彼らの彷徨の道であり、戦いから逃れる道であった。
    源平の戦いの後、大原で隠遁の日々を送る建礼門院を、後白河法皇が江文峠を越えて訪ねていった。政権争いに敗れ、山中の雲が畑に潜んでいた惟高親王が、夜泣峠を越えて二の瀬との間を往復し、薬師峠を越えて桟敷が岳から京の都を望んだことだろう。比叡山の修行たちが、峠を越えて修行地に向かった。こうして京の文化は峠道によって、丹波山中の村々に滲みてゆき、京の文化と若狭の文化、近江の文化と丹波の文化が、お互いに影響しあっていった。
    北山は深い山ではあるが、その峠道は、山人たちや都人の気配をそこはかとなく感じさせた。峠越えや木馬道歩きは、北山の山旅特有の魅力だった。
    あの峠道はどうなっているだろう。あの村はどうなっているだろう。

    雪や霧の中を苦労して越えた峠道は、今はトンネルでつながれ、トンネルを抜けるのに、5分もかからない。かつて雪を踏みしめて越えていった峠は、山仕事が消え、人びとの営みが消えたとき、峠を越える人の足跡は雪に埋もれたまま姿を消してゆく。
    伐り出した北山杉を運んでいた木馬道は、今は林道にとってかわられ、木馬は朽ち果てて沢に流され、「木馬道」という言葉さえ死語になってしまった。
    沢に沿って集落をつないでいた九十九折れの細道は、山も川もお構いなしに直進するバイパスによって、山中に取り残され、雪の中で息を潜めている。かつて集落のそばにあったバス停も、今は幹道に移ってしまった。
    高低差のないトンネルやジグザグのないバイパスによって、幹道からはずれた峠道も集落も今は雪に埋もれ、旧峠道への入り口させも雪に埋もれて見つけられない。

    コメントする 2012/01/09 12:19

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