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  • サークル名:原風景を歩く(O.C.)


    高野山の杉木立―奥の院参道

    長い坂を登り、ようやく高野山の大門前に立つと、昨日山の中腹にある天野の地を訪ねたときとは打って変わって、冷えびえとした空気が漂い、頬をもぬらすような深い霧の中です。振り返ると、間近には立ち枯れた木に蔦がまとわり、その先には幾重にも重なる紀伊の山並が霧色に滲んでいます。
    今までかろうじて見えていた朱塗りの大門も緑の杉林も、みるみる谷から昇ってくる霧にかき消され、ときおり門柱だけが姿を見せては、再びすべて重い鼠色の世界に消えてゆきます。

    大門の背後には杉の巨樹の群れが大門を護るように立ち、その袂には小さな蝋燭の炎が霧を透してほのかに灯り、わずかに色を残しています。
    高野山の入口である大門を包む霧と小さな炎は、水墨画のような幽邃(ゆうすい)な世界を生み出し、俗界と修行の世界を隔絶する役割を果たしているかのようです。
    空海が高野山を修行の場と定めた要因のひとつには、この杉の巨樹さえ呑み込みそうな山の奥深さと霧の深遠さにあったことでしょう。

    大門をくぐり、霧の中をしばらく進むと、向かいから来た女学生に「大門に行くにはどうゆけばいいのでしょうか」と聞かれ、振り返りながら「あの杉木立の中ですよ」と答えたものの、大門の姿はみえません。大門から離れると、霧はだんだん薄れ、道は街に入ってきます。
    奥ノ院の参道までは想像以上に長い距離で、天空の霧の中に突如として姿を見せた街に驚き、空海がよくこの山中にこんな平地を見つけ、修行の場を開いたものだと感心します。
    真言密教の祖、空海の御廟のある奥の院に向かう参道には、樹齢何百年という杉の古樹が頭上を覆い、樹の下には巨大な墓石が並び、杉木立から漏れるわずかな光が墓石の影を石畳に落とすばかりです。
    そこには、明智光秀、織田信長、徳川家、浅野家など日本の近世から近代にかけての歴史を物語るような墓、日米の戦争での両軍の没死者への弔いの碑、各産業界の物故者の墓が連なっています。現世での過去何百年の政治、軍事、産業界の敵対関係も怨念も、すべて超越した世界が冬の冷え切った空気の中に沈んでいます。
    参道には、現世の人間が立てた墓が並んでいるというよりは、歴史も愛憎も、時間も空間も超越した「異界」が存在しているといえるでしょう。そんな「異界」という舞台を生み出しているのが、墓所を覆う杉木立に漂う霧と幹の間に差す光なのです。

    コメント1件を表示する 2012/04/05 11:32

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