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  • サークル名:原風景を歩く(O.C.)








    丹波路の紫露草
    「ただいま~」

    クヌギやハゼの黄葉と紅葉が混ざり合う晩秋の丹波路を歩いていました。稲田の中に続く道は、橋を渡ったところで川沿いに下ってきた道と交わり、その辻で学校帰りらしい自転車の女生徒と出会いました。
    出会いがしらに、彼女は自転車から「ただいま~」と声をかけます。おそらく中学生でしょうが、まだ幼さを含んだ声です。一瞬私の後ろを誰か彼女の知り合いが歩いているのだろかと振り向きましたが、誰もいません。ようやく私に声をかけてくれたのだとわかって、ちょっと間の抜けたタイミングで、「おかえり~」と応えときには、自転車はもう先に走り去っていました。おそらく私の声は、彼女には届いていなかったでしょう。
    振り返ってみると、夕暮れ近い田んぼ道を走る女生徒の影は、村の中に吸い込まれてゆきました。そのときに道端に咲いていた紫露草の色が、記憶の中でますます透明度を増してきています。

    学校帰りの少女にとって、自分の村の道で出会った人や、自分の村の方からやって来る人に対しての挨拶は、「ただいま~」なのでしょう。ともすれば挨拶することをおっくうがったり、子供たちに声をかけると、かえって怪しまれるのではないかと思ってしまったりする都会人ですが、村はずれで出会った少女のひと声で、数十年前のなつかしいモノトーンの映画の世界に引き戻されます。
    それが丹波路のどのあたりだったのか、どの村からどの村へ向かっていたのかはおぼろげですが、このときの丹波路の旅のすべてが、この一瞬の時間の中に刻み込まれ、自転車をこぐかすかな音や紫露草の色と重なり合って、すがすがしい丹波の記憶として残っています。
    コメント8件を表示する 2012/09/12 23:06

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    原風景を歩く(O.C.)

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