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著者=檜山良昭 プロフィール

第241回 今シラミが流行している

○DDTを振りかけられた

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 驚きましたね。昨日のニュースによれば、アタマジラミ(頭虱)が流行しているというのです。
 ダニはともかく、シラミやノミはとうの昔に人間からは遠ざかっていると思い込んでいました。

 シラミといえば私たちGHQ世代には懐かしい思い出があります。そう、小学校で頭にDDTを振りかけられた思い出です。
 調べてみると、昭和21年の初めから大阪と東京で発疹チフスが大流行した。大阪が流行の源であったと言います。
 警察が朝鮮から衣服類の密輸を行った闇屋を摘発した。この衣服の中に発疹チフスに感染したシラミが紛れ込んでいて、取調べにあたった警官2人が感染して死亡した。この警官を通じて発疹チフスシラミが広がり、大阪やその近県、さらには東京にも飛び火した。

 昭和20年の発疹チフスの患者数は2461人であったのに、昭和21年には1万2366人に急増した。大阪で7000人、東京で4000人というから、患者の大多数が東京と大阪だったのですね。

 発疹チフスの薬もワクチンもまだ開発されていなかった。京都大学の東昇博士がGHQの依頼でワクチン開発に乗り出すのがこのときですが、東博士をはじめ研究室の全員が発疹チフスに感染してしまうという悲惨な出来事もあった。
 有効な薬もワクチンも存在しないのであれば、発疹チフス菌を伝播するシラミを退治するしかないと、GHQが殺虫剤であるDDTを大阪と東京の住民に振りかけた。おかげで同年6月末には流行が下火になったと言います。

○「アメリカはなんてすごい国なんだろう」

 全国の小学校で児童にDDTを振りかけるようになったのは昭和22年ごろかららしい。私の記憶では、小学生の何年であったか覚えていないが、たった一度だけだったような気がする。今になって私は知ったが、あれはシラミ退治そのものが目的ではなく、シラミが媒介する発疹チフスの予防が目的であったのですね。

 東昇博士の『細菌とウイルスの間』(岩波新書)によると、1947年から1950年にかけてリケッチア病に有効な「広範囲抗生物質」が開発され、劇的効果をおさめた。さらにソ連がワクチンの開発に成功。日本でも東博士がソ連とは異なる種類のワクチンを開発して、厚生省の検定に合格する。

 DDTの児童への散布はオーレオマイシンやテラマイシンという商標名の「広範囲抗生物質」が我が国に輸入されるようになった1950年代には終わったようです。ただし、私の家ではその後もしばらくはダニ、シラミ、ノミ退治のために押入れや畳の上にDDTを降っていた。

 有機塩素系の殺虫剤であるDDTが環境汚染防止のために使用禁止になるのはずっと後のことですが、当時は万能の殺虫剤と思われていて、私は、「こんなものを発明するアメリカはなんてすごい国なんだろう」と感心しておりました。このDDTのおかげで人間の身体からシラミやノミが駆除できたのだから、まあまあありがたかったと、お礼を言って置きましょうか。

○ヤンママ諸君よ!

 今になってアタマシラミが児童の間に流行るのは、はっきり言ってお母さん方が子供の洗髪を子供に任せっきりにして放置しているからでしょう。DDT世代はシラミやノミに苦しめられた経験があるから清潔であることに気を遣うが、今のヤンママはシラミやノミを見たこともない。それどころかブヨやアブや蚊や蜂の存在すら忘れている。掃除機と洗濯機だけを動かしていれば清潔でいられると思い込んでいる。

 DDT世代の姑に謙虚な気持ちでいろんな知恵を教えてもらっていれば、子供の頭にシラミが湧くなんてありえないんですよ。高度経済成長期以前の窮乏の時代を潜り抜けてきたDDT世代は、それなりにいろんな生活の知恵が持っている。蚊帳を吊れたり、薪でご飯を炊ける最後の世代です。
 「フン、そんな知恵はなんのたしになるの?」
 とバカにするかもしれないが、大地震にでも襲われた日には、役に立つのはこういう知識ですぞ。
 ヤンママ諸君よ。素直になって姑からいろんなことを学びなさいよ。

 シラミを詠み込んだ狂歌はたくさんあります。そのうちの一つです。

 「世をいとふ身にもしらみはすみ染めの衣のたまご数珠つなぎなり」

良村安世(よしむらのやすよ)作

【写真】発疹チフスのワクチン注射。私も小学生のときに打ったような記憶があります。たぶんDDTから予防注射に切り替わったのではないでしょうか。写真の子供のように、学帽だけは立派と云う小学生が多かった。当時は子供の間で貧富の差を感じませんでした。みんな同じように貧しかったのです(『アメリカ軍が撮影した占領下の日本』(河出書房新社)から転載)。
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