著者=檜山良昭 プロフィール

第296回 聖火リレー企画はナチスドイツから

○ベルリンオリンピックが起源

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 オリンピックの聖火リレーがゴタゴタしておりますなあ。今回に限っては私はチベットを応援しておりますから、「チベット頑張れ」と声援を送りながらテレビのニュースを見ております。

 そもそも聖火などはオリンピックのムードを盛り上げるためのショーに過ぎない。「聖火」という言葉自体がまやかしでありましょう。
 オリンピック発祥の地であるアテネから開催国に「聖火」を運ぶというアイデアを思いついたのは、1936年ベルリンでオリンピックを開催したナチスドイツでありました。正確に言えば、かのゲッベルスが宣伝大臣であったドイツ宣伝省が企画したのです。

 ヒトラーが起こしたナチス党がしばしば催したのが「たいまつ行進」です。大衆の感情を昂揚させるために、ナチスは集会を開くのにわざと夜を選び、党の軍事組織である突撃隊にたいまつ行進を行わせた。漆黒の闇のなかに揺れ動く数万のたいまつの火。その原始的で神秘的な光景にドイツの大衆が陶酔したのです。
 ナチスの思想は20世紀の科学文明や近代主義の否定であった。古代ゲルマン人の原始的な感情の復権をめざした。たいまつの火は「原始に戻れ」というナチズムの神秘主義の象徴でありました。

○ナチズムは清算されたはずなのに

 第11回ベルリンオリンピックを主催するに当たって、ドイツ宣伝省はアテネからベルリンにたいまつによって火を運ぶというイベントを思いついた。オリンピックに神秘性を付与することで、オリンピックを盛り上げようとしたんですな。
 ナチズムを象徴するたいまつの火がこのときにオリンピックと結びついたのです。
 ドイツ宣伝省はこれを「聖火」と唱えた。オリンピックに神秘性を持たせたのです。言うまでもなく、それまでのオリンピックには「聖火」などはなかった。

 第2次世界大戦後にナチズムは清算されたはずなのに、聖火だけはオリンピックで継承された。そればかりではない。金メダリストの国旗掲揚や国歌演奏などもベルリン大会から継承された。
 だから、聖火リレーや国旗掲揚や国歌演奏はヒトラーの遺産だとも言えます。ナチズムは否定されたが、大衆の意識操作の方法である宣伝技術は相続され、さらに磨きをかけられた。

 こいうわけで、聖火などはオリンピックを権威づけ、神秘性をもたせるための演出ですから、火が消えようが、北京に届かないだろうが、オリンピックそのものが無意味になるというものではない。傷つくのはIOCと中国政府だけでしょう。

○オリンピックは政治利用されてきた

 北京オリンピックでは、中国のチベットにおける人権迫害から、「オリンピックをボイコットせよ」とか「各国政府首脳は開会式参加をボイコットせよ」という声が高まっています。これに対して日本のマスコミには「オリンピックと政治は切り離して考えるべきだ」という論調が多い。
 だがね、ベルリン大会以来、オリンピックは十分すぎるほどに国家によって政治的に利用されてきた。国民の意識統合やナショナリズムの昂揚にオリンピックを利用したヒトラーの手口を政治家が学んだのです。

 オリンピックは「平和の祭典」だという。古代オリンピックでは、オリンピックの期間中は戦争をしないと、参加するギリシャの都市国家は申し合わせていたという。
 チベットで血なまぐさい人権迫害や政治弾圧を行っている中国はオリンピックの精神に反する行為を行っているわけです。機動隊に守られた聖火リレーになんの意味があるでしょうかね。
 北京オリンピックが開催されたとしても、中国政府は警察力を総動員して警備にあたることになるでしょう。「銃剣によって守られたオリンピック」になるのは明らかだ。
 こういうオリンピックにどんな意義があるのか。「平和の祭典」と言う言葉がしらじらしい、寒々としたオリンピックになりそうです。史上最低のオリンピックとなる気配です。

○「純粋に競技だけを楽しむ派」

 もちろん私はオリンピック競技は好きですよ。ただね、日本がメダルをいくつ取ったとか、メダルの数がどこの国が多いとかは興味がありませんな。国籍民族を問わずにすごい選手を見たい。選手全員を応援したい。
 いっぽう、聖火リレーや開会式や閉会式のセレモニーだの、イベントには興味がありません。純粋に競技だけを楽しむ派です。

 で、今回のオリンピックですが、北京開催を取りやめて、開会式だけはたとえばパリでやり、競技は世界各地で分散してやってはどうだろうか。たとえば、水泳はオーストラリア、体操や柔道は日本、陸上競技はアメリカ、バレーはモスクワとかね。開催可能な都市に分散すれば、今からでもまにあうでしょう。
 チベット問題ばかりではない。大気汚染や食事など、参加する選手の健康被害さえ心配されている北京オリンピックを強行するいわれはない。世界各地で分散開催したほうが、より世界の平和に役立つような気がするのです。

【写真】
 開会式で身を乗り出して観戦するヒトラーです。ベルリン大会は女性の映画監督であるレニー・リーフェンシュタールの記録映画「オリンピア」(第1部「民族の祭典」、第2部『美の祭典」)で有名になりました。
 「平和の祭典」ではなくて「民族の祭典」としたところがいかにもベルリン大会らしい。この映画はたんなる宣伝映画を超えた芸術作品だといえるでしょう。現在観ても、すごい映画だと思います(『第三帝国の宣伝』から転載)。

檜山良昭の閑散余録(O.C.)
国際情報小説、歴史シミュレーション小説など幅広いジャンルで活躍している作家の檜山良昭さんが常陸の国から日々送る「檜山良昭の閑散余録」のオフィシャルサークルです。 サークルを見る≫

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