第4巻 柳川重信【柳の嵐】
柳川重信
◎柳川重信について
重信の枕絵はまだ他にもあるのだろうが、一向に見たことがない。しかし、この組物は、彼の一代の傑作たるばかりでなく、江戸枕絵史のなかでも、十指に入る傑作と言ってよいであろう。特に唐人(とうじん)や南蛮(なんばん)人を取り入れた冒険心が良い。それがかならずしも成功したとはいえないが、枕絵組物としては、抜群の趣向といえよう。
◎【柳の嵐(やなぎのあらし)】について
本作品は画帖の形でなく、付文2枚を含めて14枚を横に貼りついであるだけなので原題も書型もわからないが、恐らくは貼型式の一帖ものであったと思われる。「柳の嵐」と仮題して刊行することとしたが、もし他に所見の方があれば、お知らせ頂きたいと願うものである。病中のため簡単な解題でお許しを乞う。
◎掲載作品例
▼【第二図】
吉原の閨中の体で、いまし花魁(おいらん)と間夫(まぶ)が同衾中。禿(かぶろ)が隣室から、小さな火入れと、茶を持ってくる。一図も二図もかなり金・銀摺(ずり)が使われているのだが、剥落してそれとわかりにくくなっている。背景の屏風絵の谷川の描写や、夜着(よぎ)の模様の波頭の描き方に北斎派の筆癖が見られる。
(かぶら)「アイ、もつてまいりイした。あけてもようございますかへ」
(間夫)「あつちの客にさせねへつら(面)で、つは(唾)をそつとぬるふりもわ(ママ)だ。(ルビの(ママ)は原文のママの意。ここは何か誤記があるようである。)ぜんてへ(全体)つばをぬるといふやつが、いろけのねへ、しやうのねへ、するきのねへ、つゆけ(汁気)のねへやつだが、おれがかね(金)のねへにはましだらうか」
(花魁)「ばからしい。とぼさせ(とばすは交合すること)はいたしイせん。ホンニぬしのきさしつたときにおち合(あう)きやくじん(客人)はみじめでざいます。又こよい(今宵)もしくじるき(気)さ。アレサこつちへおよ(寄)んなんしな。いヽきげん(機嫌)だよ。きついねん(念)つくしさ。フウ、よしてもおくんなんし」
▼【第六図】
浄瑠璃の『糸櫻本町育(いとざくらほんちょうそだち)』に取材している。本町二丁目糸屋の娘お房と小糸、それと手代佐七の三角関係であるが、構図は感心できない。背景の屏風に群馬が描かれているのは、あるいはこのシリーズが午(うま)年の新版であることを示すものでもあろうか? とすると、1822(文政5)年午年の刊行ということになるのであるが。
姉妹で三角関係になってしまっては、一体これから先、どうなることやらと、さぞかし読者も気をもまれるだろうが、ご心配は無用。すったもんだの挙句の果ては、姉のお房は本妻に、妹の小糸は妾に納まり、めでたしめでたしで結びとなる。心配するだけ損という、おきまり、花のお江戸の恋物語。
(お房)「アレサ、佐七さん、小糸にかまはずと、わたしがはふ(方)をしつかりしておくれといふにさ。アレ、はづれそうだはな。マアわたしが、五六てう(丁)も堪能したら放すから、お前、邪魔をおしでないよ。アレサゝ、アレゝ、もうよくなつてきたはな。どうせうのう。フウゝゝゝ」
(小糸)「お房さんは又、まんがち(自分勝手なこと)をしなさるよ。なんぼ姉(あね)さんだとて、わたしの亭主をひつたくるといふことがあるものか。兄弟、他人の始まり。色事では、わたしも負けては居ないよ。サアゝ佐七さん。半分しかけて、早くわたしをしておくれよ。サアヨ、とぼして(とばすは、性交をすること)おくれと言ふにさ。アヽいヽはゝ。口を吸はれて、いぢられても、佐七さんなら死にそうになるはな。これだから、姉さんにとられる。アヽアレゝ。エヽモウ、じれつてへ。早くよゝ。アヽゝゝフウゝゝ。アヽいヽ心持ちだ」
(佐七)「妹を、口を吸つたり、いぢつたりしながら、姉さんのぼヾ(女陰の一称)をするといふは、両の手にうまいものだ。俺もよつぽど、ぼヾ果報の有(ある)者だはへ。コレ、お房さん、おめへも茶臼(女が男の上になって性交する体位)は下手なもんだ。そんなにかぶさつては、俺もせつなし。おめへもへてぎ(大儀)だろう。ぼヾの方をぴつたりとひつつけて、胸の方を透かしなといふにさ。アヽよくなつてきた。スウゝゝゝゝ」
(解説=林 美一)



