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いきいき大人見聞録 画像

小木曽教彦さん (陶工)
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「スローな手作りにこだわる
それがリサイクルにもつながる」


第3回

もの作りは60歳から

土を通じた出会いに感謝

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 陶芸教室をしていますが、初めての人と出会うと、私自身も教えられることが多くあります。
 私はたかだか土ひねりの先生にすぎません。工房や窯から出て外でいろいろな人に出会います。そこで、いろいろこちらが教えられます。そういう出会いが楽しい。会えば、私のほうから、ありがとう、という気持になります。

 教育とはドイツ語の「引き出す」が語源と聞いていますが、陶芸教室においても、教えるのではなく、逆に相手の方に教えれられることも多いですから、お互いに引きだしあうということです。
 ですから、100人に会うより200人に会う、200人より300人に会うほうがいい。
 出会いが財産です。いい出会いがあると、焼きものをやっていてよかったな、と思います。土いじりひとつでいろいろな人とコミュニケーションが図れる、こんないいことはありません。

「まっ、いいか」の心

 「ものづくりは60歳から」ということばがあります。これは60歳までの人生があって、それまでに蓄積されたものが60歳を過ぎてから出てくるということでしょう。

 陶芸の浜田庄司さんが晩年、かけ流しという、数秒でする仕事をしましたが、それを見ていた素人さんが「たった10秒で描いている」と言うと、「60年と10秒だ」と答えたそうです。まさにその通りですね。

 私自身ですか。私は60歳を過ぎて、「まっ、いいか」の精神でいます。

=それはどういうことですか。

 60を過ぎて最近は作り終えると、「まっ、いいか」と思います。
 土の世界は1+1=2、とはいきません。人生には100パーセントはありません。「まっ、いいか」は半ば諦めであり、半ば満足でもあります。反省と満足の両方でしょうか。これがおれの作品かあ……という諦めと、よし今度こそという気持の両方が入り交じっているんでしょう。

初心者の心を失わない

 純粋な気持ちで作れればいい。邪(よこしま)な気持が入るとダメですね、たとえば「よし、これなら売れる」なんて考えると(笑)。土と遊ぶ心をたいせつにしようということでしょう。

 子どもと接していると、子どもの目はほんとうに純粋です。大人もそんな気持ではじめは純粋に陶芸に取り組んでいます。
 でも、大人はしだいに欲が出てくるのですね(笑)。売れるかなとか。回を重ねると、欲が出てくるものです。商品としてどうか、といった視点が入りこんできますね。純粋な気持ちをどれだけ保つことができるか、それがポイントではないでしょうか。原点を忘れたくないですね。

 初心者に会うと、私の方が反省させられます。初心者の純粋な心を失っている自分が見えてきます。

B&Bで陶芸を

 美濃は1000年の陶芸の歴史をもっています。ここから歴史のある陶芸世界を発信したいですね。
 ぜひ、多治見の地へいらしてください、と思います。年齢は関係ありません。多治見なり、この住吉窯(注=小木曽さんの窯)に滞在して陶芸を体験してもらいたい。ここの窯には宿泊施設があります。1泊でも2泊でも、1週間でもいいです。滞在して陶芸の世界に接してほしい。

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▲工房内の作業スペース

 ヨーロッパではB&B、つまりBed & Breakfastといいますね。私はBed & Beerだと言ってます(笑)。実際いま、ビアガーデンを造っているところです(まもなく完成予定)。
 土いじりをじっくり体験してもらいたい。観光で10分ほど体験して、1週間ほどたって焼いたものが送られてくる、それもひとつの体験でしょうが、焼きものはやはり手間がかかります。そのプロセスや手間のかかることもじっくり体験する、それがスローライフでしょうし、そういう世界を体験していただきたい。
 いつ来ても楽しめる、そんな工房にしたいものです。全国の大学10校ほどの合宿もプロデュースしました。若い人が魅力を感じて焼きものに携わる。若い人が集まれば街は栄えると思います。

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▲山間の工房につくられた道

 おもしろい試みがあります。財団法人岐阜県陶磁器資料館の友の会では、芭蕉の歌を短冊にします。それを焼いて器を作ります。後日、改めてその地を訪ねて、焼かれた自分の器をもってホテルや旅館に行きます。そしてその宿泊施設のプロの料理人が手がける料理を、自分の作った器に盛ってもらいます。
 焼き物は、作ったら終わりではありません。ちゃんと使ってこそ器です。プロが作る料理を盛られれば、器もさぞやうれしいことでしょう。
 そういう陶芸体験、旅の体験ができれば面白いのではないでしょうか。

(おわり)

小木曽教彦さん (全3回)

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