くらしの知恵袋/旬を味わう~食の耳寄り情報

食の耳寄り情報

Vol.16

活気あふれる築地市場

 前回の築地取材で松茸を購入して以来、すっかり高級食材にハマってしまった私は、いわゆる高級といわれる食材をいかに安価で手に入れるか? ということに全神経を集中させながら市場を歩いた。
 ウニ、牡蠣、あわび、いくら……、歩けば歩くほどに視界に入ってくる幾多の高級食材たち。中でも、今日もっとも目にしたのがカニだった。まず初めに見つけたのは「毛ガニ」。毛ガニ発泡スチロールの中で、おがくずに覆われた横幅20cm強の毛ガニたちがモソモソと動めいている。一箱一箱に値札が付いてあって、おおよそ1,000~2,000円だ。店の人曰く、大きくなるほど高値がつくとのこと。ただプロに言わせると、「500gくらいの若いものの方が、味はいいんだよね」だとか。その若くて500gくらいの毛ガニを見ると、1,000円の値札が付いている。
 ふと、隣に目をやってみる。いた! 一匹で一つの発泡スチロールを独占し、さらに箱から足がとび出ている。「タラバガニ」だ。興味本位に値段を聞いてみると、「目方1,600円かな」。続けて、「箱の横っかわみてみな」。言われたまま箱の横面をかがんで覗くと、「オス 北海道知床産 2.2kg」との表示。1kg1,600円の2.2kgだから、およそ3,500円になる。予算オーバーだ。でも淡い期待を抱いて、「もう少し小ぶりなの、ないですかね」と聞いてみると、「朝一にはあったんだけど、もう今残ってるのはこれだけだよ」とあっさり言われてしまった。もう少し歩いてみれば、このタラバガニより小ぶりのものがあるかもしれない。
 3匹目にして「これはいける」というサイズのタラバガニを見つけた。箱の側面をチェックして見る。「オス ロシア産 1.9kg」。即座に店の主人にその値段を聞いてみた。「キロ、ワンツーだね。これはオスだからうめーぞ」との返事。ワンツーとは1kg1,200円という意味だろう。つまりこのタラバガニはおよそ2,300円。「これ、ください」私の即決ぶりが気に入ったのか、主人の顔が急に緩んだ。「もうこの季節だから心配ないけど、一応氷一緒に詰めとくよ。箱がいい? 袋でいい? 箱は持ちにくいから、袋二重にしとくね」というサービスぶり。
袋詰めする主人 そういえば、オスって言ってたけど、どこで見分けるのだろうか。「オスメスはどこでわかるんですか?」主人は袋詰めにしてくれていたタラバガニをひょいっと裏返し、「この三角の“ふんどし”してる方がオスだよ。ふんどしがオスの印」と、指で指して教えてくれた。ついでにもう一つ質問してみる。「カニ味噌も入ってますよね?」すると、主人の顔が歪んだ。「ごめんねー。タラバのカニ味噌はあまりお勧めできないんだよ。おいしくないの。だけどその分、これはオスだし身が格別おいしいから心配ないよ」。
 知らなかった。カニの王様とも称されるタラバガニのカニ味噌は通常食べないのだという。ただ、その身(肉)の旨さ故に王様と言われるというのなら、味はお墨付きなのだろう。カニ味噌は残念だが、その身に期待しよう。
 会計を済ませた私に、約2kgのタラバガニと約1kgの氷、計3kgの袋を手渡しながら主人は「帰ってすぐにさっと水を流したら、20~30分沸騰したお湯に、塩を入れてしっかり茹でなさい。殻がぱぁーと鮮やかな赤に変わるよ」というアドバイスもおまけしてくれた。赤い色に変わる殻と、その中に詰まっている王様タラバガニの身。3kgの重みも忘れ、帰路を急いだ。

築地旬リポート

その16『タラバガニのうんちく』

 タラバガニの脚を数えてみると、はさみを入れて8本。蟹の脚は8本ではなかっただろうか? 調べると、タラバガニはやはり「やどかり」の仲間であった。確かに一方のはさみ、右のはさみの方が大きいのがその証拠のようだ。漢字で書くと「鱈場蟹」。読んで字の如し。昔は鱈を捕る網によく引っかかり厄介者とされ駆除されていたという、なんとももったいない話であるが、その通り、鱈と漁場が重なるためにこの名前が付いたという。
タラバガニ クリックで画像を拡大 ところでカニ缶と言えば、タラバガニはその最高級原料であり、昔はほとんどが缶詰になって売られていた。死後1時間で腐敗が始まるので、缶詰にしないと流通するのが難しかったのだろう。しかしいったん市場に出回り、タラバガニ独特の繊維の太い豊かな肉質、上品で淡白な味が知られるにつれ、需要はうなぎ上りとなった。しかし、現在日本で食されるタラバガニはほとんどがロシア産。1990年代初頭までは国産水揚量が約2,000トンあったが、2000年以降100トンを切ってしまったのだ。現在国内消費量全体の80%をロシアからの輸入に頼っている。さらに、輸入物に混ざって、代用品も多く出回っている。「アブラガニ」、「いばらガニ」などは、一目では見分けがつかないため、「タラバガニ」と偽って売られている場合があるので要注意。決定的な違いは、アブラガニは茹で上がると脚の殻が白くなるのに対して、タラバガニは真っ赤に変色する点。また、いばらガニはタラバガニよりもトゲが多く、鋭いのが特長だ。
 現在では缶詰だけでなく浜ゆで直送のもの、ボイルしてすぐに冷凍されたもの、活けガニ、など売られ方も多様化している。いずれにせよ値段は張るが簡単に手に入るようになっている。11月から2月がもっともおいしい季節だが、年末年始は非常に値が上がるので避けた方がよいかもしれない。

旬のおすすめレシピ

『絶品タラバのカニ玉・ピリッと生姜あんかけ(2~3人分、2枚分)』

絶品タラバのカニ玉・ピリッと生姜あんかけ(2~3人分、2枚分) クリックで画像を拡大

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材料 タラバガニの脚 2~3本、タマゴ 4個、干ししいたけ 2枚、ねぎ 1/2本、きくらげ 2枚
調味料 水 鶏がらスープ大さじ4、塩・白胡椒 少々、砂糖 小さじ1、醤油 小さじ1
生姜あん[生姜 一かけ、とりがらスープ 1カップ、塩 少々、砂糖 小さじ2、醤油 小さじ1、水溶き片栗粉 適量(片栗粉小さじ1、水小さじ2)、サラダ油 大さじ4、ごま油 微量(お好みで)]
作り方
    1.タラバガニの身を殻から出し、軟骨を取ってほぐしておく。干ししいたけときくらげは水で戻しておき、水を切ってから細く切っておく。ねぎは千切りにする。
    2.生姜をおろす。絞り汁だけを使用してもよいが、すったものをそのまま使用してもよい。他の調味料と合わせる。
    3.タマゴを軽くときほぐし、(1)すべてを加えて混ぜ合わせる。
    4.調味料の4品を(3)に加えて全体を混ぜる。
    5.フライパンが充分熱くなったら、サラダ油を表面になじませる。(4)の半分(1枚分)を流し入れ、全体をフライパンの上で大まかに混ぜ、形を丸く整える。
    6.半熟になったら蓋をして蒸し焼きにする。火は弱火にする。表面がきつね色になり始めたら、ひっくり返して裏面を軽く焼き、お好みでごま油をかに玉の周りに回しかけて、火を止め、器に移す。
    7.(2)の生姜あんをフライパンに流し、煮立てさせる。水溶き片栗粉を加えてとろみがでたら、火を止め、先に器に盛ったかに玉にかける。

取材・文・レシピ/丸山拓也

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